サルは観光資源か害獣か

ふと降り立った駅に気になる張り紙が。

サルに注意?


野生生物といえば、希少で大切にしなければ、

なんて尊ばれることも多い最近ですが

「害獣」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

同じ野生であっても、人間にとって不都合なことをすると、

途端に扱い方が変わります。

そんな注意が必要になってしまった背景には一体何があるのか。


波勝崎モンキーベイ入口


歴史の中で、里山だけでなく奥山にまで開発が及び、

彼らの居場所を奪ってしまったことも一因かもしれません。

とはいえ張り紙で注意が必要なほど、

サルにエサやりなんてしていないけれど。。

そう思っていましたが。

野猿公苑が閉園の危機を乗り越えたという記事を見て、

何かヒントがあるかもしれないと、

伊豆半島の波勝崎を訪れました。


海岸でエサに夢中なサルたち


海岸沿いの山で暮らす野生のサルの群れ。

この場所に撒かれたエサを求め、サルたちがやってきます。

人間はその姿を見ることが出来るというのがこの場所の売り。


海岸でエサに夢中なサルたち


餌付けをし続ける理由としては

サルの個体数を維持するため。

エサを止めてしまうと、

食べ物を求めて民家を襲うようになってしまうから。

ということでした。


外のサルに建物の中からエサを与える


この建物の中から、人がエサを与えることも出来ます。

その際は素手ではなくトングを使って、

指定のエサのみ与えるルール。

ヒトの手から直接エサをもらうことのないよう、

配慮されていました。


建物の中から見たサルたち


中から見た様子。動物園のよう。


遊びに夢中なサルの子ども


子どもたちはエサより遊びに夢中。

この子たちは本当に野生なのだろうか?

と違和感を感じつつも、

確かに可愛いんですよね。


遊びに夢中なサルの子ども

実は学生の頃、

ニホンザルの調査実習に参加したことがありました。

当時の記憶にあるのは、

地上から見つからないよう、

高い木々の上を飛び回るサルたちの姿。

こちらの気配を察知されれば、

あっという間にいなくなってしまいます。

ここでは数メートル先に人間がいたとしても、

全く気にしていない様子。

野生とは一体どういうことなのだろう。


毛づくろいするサル

1997年、日本モンキーセンターから

以下のような発表がされていました。

『野生に価値を見つけ、

それを伝えるために餌づけをして

サルを見せる野猿公苑は、

結果として、野生を消費、消耗、

喪失させる作用を持っている点において矛盾をきたした。

山にすむニホンザルが、

ペットでもなければ動物園のサルでもない以上、

餌づけという干渉はそろそろ止めにしなければならない

時期にきていると言えよう。』


この発信からもう20年以上経っています。


ぼーっとしているサル

最近は野猿公苑と呼ばれないこともありますが、

同じコンセプトの観光地は存在します。

私も消費者として、気づかないうちに

野生を消費して来てしまったかもしれないと、

複雑な気持ちになりました。

目の前のサルたちが死んでしまうかもしれない。

そう思うと、つい可哀そうで

エサを与えたくなってしまう気持ちもわかりますが。

回りまわって餌付けされたサルたちが、

害獣扱いされることになりかねない。

ということを、覚えておきたいですね。

波勝崎モンキーベイの出口

そして万が一野生生物に出会ってしまったら、

エサを与えないのはもちろんですが、

はたしてどれくらいの距離が適切なのか?

アメリカの自然公園で教えられている、

サムズルール、サムズトリックというものを見つけました。

手で親指を上げたグッドサインを作り、

腕を前に伸ばす。

片目で見た時に、対象の生き物が

自分の親指に隠れるくらいが最低限の距離だそう。

まずは距離感をつかむために、

近所のカラスやネコで練習中です。



参考

波勝崎モンキーベイホームページ

三戸 幸久, 野猿公苑 : その問題点と再生, ワイルドライフ・フォーラム, 1997, 3 巻, 4 号, p. 155-157