牛が牛らしくいる牧場で山づくり

牛は山でどんな暮らしをしているのだろう?

山で牛を放し飼いするという、

山地酪農を営む薫る野牧場を知り興味津々。


とはいえ観光牧場ではないので、

一般の人は山の遠くの方に牛が見える程度。

牧場には入ることは出来ません。



調べると時々見学会をしているということで、

早速消費者として牛乳をオーダーしつつ、

見学できる機会を待つことにしました。



早速届いた牛乳とメッセージ。

ちょうどこの頃の牧場では子牛が生まれ、

お母さんのミルクは子どもが優先。

子牛が飲んだ後、

残りのミルクを頂いています。

そんなメッセージに、自然のしくみはそうだよねと、

温かい気持ちになりました。


 


新緑のチーズケーキ。

こちらは七十二(しちとに)という

こだわり食材を使ったケーキ屋さんのもの。

もちろん美味しかったです。

神奈川県を中心に、

薫る野牧場の牛乳を使ったジェラート、

パン、ケーキなどが売られており、

飲食店の方々にも好評のようでした。


薫る野牛乳の消費者生活を送ること数週間。

見学会の機会が訪れました。

低山とはいえ、舗装の取れかけた不安定な道に

ナビに出てこない牧場の住所。

慣れない山道での運転に四苦八苦しながら、

何とかたどり着きました。 



牧場主の花坂さんにご挨拶し、見学会のスタートです。

前半は牛舎見学と山地酪農の紹介を薫さんから。

薫さんは山地酪農の本場、

岩手県岩泉町の中洞牧場で3年半ほど修行し、

独立を考えていたところ、

タイミングよく大野山での牧場経営の話があったそう。

しかもここ神奈川県は薫さんの故郷。

素晴らしきご縁とタイミングですね。


牛舎はありますが、中には牛がいません。

普段は敷地内の草原や林の中で自由に暮らしていて、

ご飯の時も、休憩する時も、夜寝る時も、

常に山のどこかにいます。

牛のご飯は自然に生えている草。

季節によって生えている草の状態が変わるため、

ミルクの風味もそれに合わせて変わる楽しみも。




完全に野生に返ってしまわないよう、

1日2回のおやつタイム。

この時だけ牛を牛舎に呼び、

おやつを食べている間に搾乳です。

おやつの内容は、ふすまやビーツの搾りかすなど。

多くはご近所で得られるもの、

遠くても日本国内のものでした。

牛もEat Localですね。




牛を呼ぶときにはこのベルを鳴らし、

「コー!コー!コー!」と呼ぶそう。

「コー」とは岩手県の言葉で「来い」の意味。

なぜ岩手かというと、最初に連れてきた牛は、

薫さんが山地酪農を学んだ中洞牧場出身。

牛が岩手の方言に慣れているため、

今でもその言葉を使い続けているそうです。





牛乳生産量の目安は、自然の状態で子牛が飲む量。

1日5kg ~ 10kgです。

それに合わせて母体でミルクが作られるので、

ここでは1日1頭10kgを超えない生産量。

それと比べて、

一般的なジャージー牛の生産量は

1日1頭あたり40 kgにもなるそうです。


もう一つ大事な数字は牛の寿命。

約20年ほど生きるとされ、

薫さんは過去19歳で出産した牛を見たと仰っていました。

しかし一般的な牧場にいる牛たちの平均寿命は5~6年。

この差が意味することは何なのか。

人為的な何かがはたらかない限り、

10kgのミルクを40kgにしたり、

20年近く生きるはずの寿命が5~6年にはなりません。


色々な要因が考えられますが、

小さな牛舎の中で暮らしている牛は、

運動量が少なく、自然とのつながりも無く、

ストレスが増加している可能性があるということ。


また、大量生産を可能にするための栄養豊富な食事は、

牛にとっては負荷が高いかもしれないということでした。

元々牛は草食動物ですしね。


薫る野牧場にいる最年長の牛はもうすぐ7歳。

10年後もまた会えることを願っています。




山地酪農のお勉強をした後は、

いよいよフィールドへ。

牛たちは第一印象からとっても可愛かったです。

人間に興味津々で近づきたくて仕方ない子

(写真のすみれちゃんはそういうタイプ)

気にせずひたすら草を食べ続ける子

林の中から遠目に見ている子

それぞれに個性的でした。



フィールドを散策しながら、牧場経営の柱は二つで、

一つは牛乳の生産で、

もう一つは山づくりだと花坂さん。

里山と呼ばれる日本の山でも、

メンテナンスできずに放棄されている山も出てきています。


現にここも萱場として使われていたのが、

時代とともに需要が無くなり

荒れ放題だったそう。

そこを牛たちと開墾し直し、

土壌保水力が高く日本の野生種であるノシバを蒔き、

牛がそれを食べ更にノシバを広げていくことで、

強い山づくりを目指しているそう。


このノシバという種は、

地下に40~50cmも深い根を張るそうで、

大きな樹木に比べれば劣るのではと思いましたが、

草丈の低い草本類にしては

土壌保水力を期待できる

頼もしい存在なのだと理解しました。




    そして牛と山、双方にとって

    バランス取れた場所であるためには、

    1〜2頭あたり少なくとも1ヘクタールの土地が必要と。


    薫る野牧場の敷地面積から計算すると、

    最大15頭程度までと考えているということでした。


    そうした広い敷地を自由に歩き回ることで、

    十分な運動量を確保出来、ストレスも少なく、

    出産時は非常にスムーズだそうです。


    産む場所は牛自身が、

    平坦で清潔で隠れた場所を決めるそうです。

    そして花坂さんたちが気が付かないうちに生み、

    おやつの時間に見たことのない顔が増えていると、

    笑っていました。





    様々な学びあり、気づきあり、

    牛たちの個性も存分に楽しめる、

    すてきな薫る野牧場見学でした。

    唯一注意点としては、

    水道が通っていないため乳製品の加工は出来ず、

    牛乳やソフトクリームなどの販売は行っていません。


    そういったニーズは、

    山北駅近くのやまきたさくらカフェで、

    満たすことが出来ます。



    参考